現在ではキーボードの構造と言えばメンブレン式やメカニカル式、静電容量無接点式などの物が主流です。
しかし、パソコン黎明期の2000年以前にはこれ以外にもいろいろな構造のキーボードがあったのです。
その中の一つに”バックリングスプリングキーボード”というものがあります。
現在では非常にマイナーな存在となっていますが、「ガション!ガション!」という音と同時に発生する官能的な打鍵感によって今でも一部の人たちにカルト的な人気があります。
そのため骨董品キーボードなのにも関わらず、海外では中古のキーボードをオーバーホールして販売している業者がいたり、ヤフオクなどでは当時の何倍もの値段で取引されていたりします。(中には4万近くで落札されている機種も、、、)
今回はかつてキーボードに採用されていたバックリング式スプリングキーボードの構造や特徴を解説していきます。
また、淘汰されていった構造ではありますが、実は現在でも日本語配列のバックリングスプリングキーボードが新品で入手できるのです。
最後に現在でも入手できる日本語配列の機種を解説していきます。
こんな方に向けて書いています
- バックリングスプリングキーボードを特徴を知りたい方
- バックリングスプリングキーボードを検討しているキーボードマニア
- 現在でも新品で手に入る同構造のキーボードを探している方
バックリングスプリングキーボードとは?
バックリングスプリングキーボードを知るにはかつてIBMが発売していたmodel Mというキーボードを説明する必要があります。
IBMという会社は当時PC本体の販売で栄華を誇っていた会社で、そのIBMが1980年代中盤から1999年まで発売していたmodel Mやその派生モデルに採用されていた構造だからです。
このmodel Mが出る前はパソコンの黎明期でまだキーボードの配列を試行錯誤していた時代で、数字やアルファベットの配列はタイプライターの配列から引き継がれていたものの、パソコンで新たに追加する必要があったctrlキーやaltキー、ファンクションキーなどの場所は試行錯誤の段階でした。
しかし、IBMは使いやすい配列の研究をした結果現在のキーボードと近い配列のmodel M が発売され、それがそのままスタンダードになっていったという現在の配列の祖のようなキーボードなのです。
また、配列だけではなく打鍵感にもこだわられていました。
この構造は元々タイプライターと近い打鍵感を再現するために開発したと言われています。
あいにく僕はタイプライターを打ったことがありませんので似ているかはわかりませんが、タイプライターは音が大きく「押し抜き感」があったそうです。
そして、これはバックリングスプリング方式の特徴とまんま合致しており、狙い通り大きい音と「押し抜き感」を感じられます。
押し抜き感:一定以上の力を入れたら一気にそこまで下がる感覚
このように開発の段階から打鍵感には非常に力を入れて作られていることが分かりますし、他のキーボードにはない打鍵感で唯一無二の魅力があります。
これこそが現在も一部から支持されている理由でもあります。
ただしIBMのキーボード事業はLexmarkという会社に分社化、のちに売却され てmodel Mは1999年に生産終了しているので、今からIBMのmodel Mを手に入れようとするとオークションを漁るかジャンク品を漁るぐらいしかないでしょう。
以上がバックリングスプリングキーボードを語る際に欠かせないIBM model Mについて解説してきました。
とはいっても僕はパソコン黎明期を過ごしておらず、そこまで詳しくないのでここらへんで終わりにしておきます。
もっと歴史を知りたい方は黎明期を過ごした方たちが運営している昔ながらのデザインのホームページにかなり詳しい解説がされているので、気になる方は他のサイトを漁ってみても良いと思います。
バックリングスプリングキーボードの仕組み
次にバックリングスプリング式の構造について解説していきます。
この構造は日本語では座屈ばね式と呼ばれており、バネが折れ曲がるようにして動作するという意味です。
バックリングスプリング式キーボードのキートップを取り外すとこのように細いバネ現れます。
恐らくほとんどの方はばねを見たら「このばねがそのまままっすぐ下がって行って感知されるのかな?」と考えると思いますが、実はそうではありません。
もちろんこのばねを指で押し込んでいったら感知されますが、ただ単純にバネが縮まるだけでは無いのです。
IBMが出している特許に掲載されている画像には以下のような断面図が掲載されています。
これはバックリングスプリング式キーボードのスイッチ部の断面図です。
この状態ではキーに力は加わっていませんが、最初の状態からバネが少し折れ曲がっているのが分かると思います。
この状態からキートップに力を加えると、ばねの折れ曲がりが大きくなります。
さらに力を加えていくとばねの下の板が動き、それに伴って接点が押され文字が入力されました。
それとほぼ同時に曲がったばねが完全に折れ曲がりクリック感とともに「カチッ!」という音がします。
以上がバックリングスプリング式キーボードの構造です。
部品点数が少なく非常にシンプルではありますが、ばねを折れ曲がらせているのが独特です。
バックリングスプリング式はバネを折り曲げて反発を生み出している
打鍵感の特徴
ではこの構造を踏まえて、キーの押し込み量とその反発力の関係のグラフを見てみましょう。
赤い丸で囲んでいる部分がバネが折り曲げられてクリック感を感じ、同時に文字が入力されるポイントです。
この部分は急にキー荷重が抜けていることが分かると思います。
この急にキー荷重が抜ける部分でクリック感を感じて”押し抜き感”を演出していると言う訳です。
また、それと同時にバネが完全に折れ曲がる「カチッ」という音とその反響音、その後にキーから指を離す際に発生するバネが元の状態に戻る音が合わさると「ガションガション」と非常に大きな音になり、「俺は今タイピングをしているッ!」という気分を味わえるのです。
また、現在はクリック感を味わえるキーボードと言えば青軸系のメカニカルキーボードですが、チェリーMXの青軸のクリック感とも少し性質が違います。
下のグラフは青軸のキーのストローク量と反発力の関係を表していますが、クリック感があるポイントで一気に反発力が下がるわけでは無く、徐々に荷重が抜けていく性質を持っています。
このように現在のクリッキー系のメカニカル軸とは少し違う独特な打鍵感になっていると言えます。
この一気に荷重が落ちる性質がバックリングスプリング式の唯一無二の官能的な打鍵感を実現していると言っても良いでしょう。
正直実際に打ってみないと打鍵感のすばらしさはわかりませんが、イメージは伝わっていると嬉しいですね。
一気に底付きする”押し抜き感”は急に荷重が抜けるから実現できる。
接点はメンブレン式
ちなみにバックリングスプリング式はこのばね部分の構造を指しており、接点部分はメンブレン式が採用されています。
メンブレン式と言えば千円程度で購入できるキーボードに採用されており、ぶにゅぶにゅした打鍵感のイメージがあるかも知れませんが、ぶにゅぶにゅしているのはメンブレンシートの上に置かれたラバーカップが原因です。
メンブレンシートというのはこのようなもので、緑の丸が付いている部分を指で触れるだけで入力されます。
ラバーカップというのは名前の通りゴムでできて中心を押すとあのいつものブニュブニュ感を感じられます。このラバーカップがキーの下に1つづつ仕込まれているのです。
このように、本来はメンブレン式というとは接点部分の名称で、キーの反発力を生み出す部分の構造を言っているわけでは無いのです。
バックリングスプリング式はメンブレン式ではありますが、当然ながらラバーカップは使われていないので、あの不快なぶにゅぶにゅした感触は一切ありません。
しかもラバーカップ式のように経年劣化で打鍵感が変わる心配が無い点も良いですね。
また、安価なメンブレンキーボードと比較して故障するリスクが少ないです。
個人的にはメンブレンキーボードが耐久性が低いと言われている原因はラバーカップが原因になっていると感じています。
ラバーカップは経年劣化でキーの反発がなくなって戻らなくなったり、固くなったりすることがあり、ラバーカップの不具合によって廃棄されるケースが多いのではないかと考えています。
しかし、バックリングスプリング式はそのような経年劣化による故障のリスクが低い素材ばかり使われているのと、昔のキーボードは”防弾キーボード”と呼ばれるほど堅牢で今のキーボードよりも作りがしっかりしていたので破損の危険性も少ないです。
ゲームをする方は別ですが、文章作成をするくらいならメンブレンキーボードでもその寿命を使い切ることはほとんどありません。
実際に現在でも30年以上前のメンブレン式であるmodel Mを愛用している人がいるので通常用途であれば耐久性は高いと言ってもよいです。
このように、ラバーカップのような経年による劣化が少ないことを加味すると、そこら辺の安価なメンブレンキーボードよりも耐久性は高いと考えられます。
まあ、とはいってもメンブレン式なのでさすがにメカニカルキーボードや静電容量無接点方式と比較すると耐久性は劣るとは思いますけどね。
ちなみにメンブレン式ではなく静電容量無接点方式が採用されていた機種もあり、若干打鍵感が違っていたようです。しかし、ほとんど出回っていないのでこちらはmodel M以上にレア物です。
そのため、ほとんどのバックリングスプリング式はメンブレン式だけど、メカニカル的な面を持っていて今の安価なキーボードとは一線を画すクオリティーを持っていると言えるでしょう。
メンブレン式だがメカニカルな面も持っている
現在でも新品で入手できる
かつてバックリングスプリング構造が搭載されていたIBMのmodel Mは生産終了していますが、現在でもUnicomp(ユニコンプ)という会社がバックリングスプリングキーボードを発売しています。
この会社はIBMのキーボード事業がLexmarkという会社に分社化して、その分社化した会社を元従業員がバックリングスプリングキーボードに関する知的財産権や金型を買い取ってそれをそのまま引き継いで生産しています。
つまり、IBMのバックリングスプリングキーボードに関するノウハウや金型がそのまま使われているということですね(笑)
実際に打鍵感はIBMの物と変わりませんので、当時のバックリングスプリングキーボードを現在でも新品で体験できるということです。
そして、われわれ日本人に嬉しいのが日本語配列の物も選べることです。英語配列よりもバリエーションは少ないですが、日本語の文章を作成する用途であれば結局日本語配列が一番良いです。
>>>キーボードは日本語配列と英語配列はどっちが良い?違いとおすすめを解説!
しかし、金型が劣化していてヒケだらけだったり、個人で英語で書かれているUnicompのサイトで購入する必要があったり、キーボード本体より高い送料を支払う必要があるというデメリットもあります。
ここら辺はUnicomp UltlaClassicのレビューで詳しく解説していますので、そちらをご覧ください。
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唯一無二の麻薬的打鍵感?UnicompのUltraClassic106 日本語配列をレビュー【IBM】
現在はキーボードの構造というと安価で購入できるメンブレン(カバーカップ)式、高級キーボードに採用されているメカニカルキーボード、静電容量無接点方式などがあります。 しかし、過去のキーボード黎明期にはこ ...
当時のmodel Mの打鍵感が新品で手に入る!
バックリングスプリング式の特徴
それでは、そんなバックリングスプリングキーボードの特徴をメリットとデメリットの両方を含めて解説していきます。
バックリングスプリング式の特徴は以下の4つが挙げられます。
- 官能的な打鍵感
- 耐久性は中程度
- キータッチが重い
- 音が非常にうるさい
デメリットの部分が不穏な空気を醸し出していますが、それぞれの特徴を詳しく解説していきます。
官能的な打鍵感
1つ目は依存性がある官能的な打鍵感という特徴があります。
これがバックリングスプリング構造の最大のメリットと言っても良いでしょう。
構造を紹介する部分で解説したように、この構造はある一定よりも深く押すと一気に荷重が抜けて「ガション!」という音とともに”押し抜き感”を感じ取れます。
これが非常に気持ち良く、最高の打鍵感を求めて30万円以上キーボードを購入してきましたが、今まで購入してきたん中では最高のキータッチです。
そのため、意味もないのにキーボードを触ってキータッチを味わってしまいますし、一定期間触っていなかったらタイピングがしたくなります(笑)
僕は今までリアルフォースやHHKB、メカニカルキーボードなど様々なキーボードを試してきて、HHKBが最高の打鍵感という結論に至っていました。
しかし、バックリングスプリング構造はそれらを超えてしまったと言う訳です。
まあ、デメリットもその分デカいので総合的には及ばず、そのままHHKBを愛用してますけどね。
このように、キータッチの気持ち良さという観点であれば現行で購入できるキーボードの中では最高レベルと言っても差し支えないでしょう。
是非とも皆さんにも一度体験してみて欲しいですね。
ちなみに、静電容量無接点方式が気持ち良いのも”押し抜き感”があることが挙げられますが、バックリングスプリング式ほどではありません。
気持ち良い打鍵感の条件について解説していますので、是非ともご覧ください。
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耐久性は中程度
2つ目は耐久性は中程度ということです。
バックリングスプリングキーボードはメンブレン式なので、どうしても現在発売されているメカニカルキーボードや静電容量無接点方式と比較すると耐久性は劣ります。
しかし、千円程度で購入できる安価なブニュブニュとした感触のメンブレンキーボードと比較すると、ラバーカップの劣化が無い分経年劣化が起きにくいですし、本体の頑丈に作られているのでそれらよりも耐久性は高いです。
そのため、耐久性は中程度ということになります。
ちなみにですが、現在入手できるUnicompではオンラインショップで交換用のメンブレンシートやスプリングを購入できるので、予備パーツをストックしておけば半永久的に使えますので、耐久性はそこまで気にならない部分だとは思います。
キータッチが重い
3つ目はキータッチがめちゃくちゃ重いということです。
これは紛れもないデメリットです。
上の仕組みを解説するときに掲示した資料をもう一度みていただくと、最も反発力が高くなる部分が70gに達することが分かりますし、荷重が抜けた後も45g程度です。
この70gという数字がどれだけ重いのかと言いますと、青軸だと60g、赤軸のメカニカルキーボードやHHKBなどの高級キーボードは45g、リアルフォースの中には30gという荷重になっています。
実際に1万文字以上タイピングする時やタイピングソフトをプレイする際には指への負担をかなり感じます。
そのため、余りにもたくさんのタイピングをする用途には不向きだと感じています。
もし、実用性を求めるなら45gが最もオススメです。メインのキーボードを探している場合は是非とも参考にしてください。
>>>おすすめのキー荷重は45gです!その理由とおすすめのキーボードを解説!
音が非常にうるさい
4つ目は音が非常にうるさいという特徴です。
これは打っている本人にはメリットに感じる部分もありますが、自分以外の他の人にとってはデメリット以外に他なりません。
打っている本人にとっては指に伝わる”押し抜き感”とともに大きな音が鳴ることで、触覚だけでなく聴覚からもバックリングスプリング式を楽しめます。
そのため、他に人がいない場合はメリットになり得ます。
しかし、同じスペースに他人がいる場合にはさすがに別の静音キーボードを使用するほど音がうるさいです。
うるさいキーボードと言えばメカニカルキーボードの青軸を想像する方もいると思います。青軸は「カチカチ」という音がするので他の人に迷惑が掛かるキーボードというイメージを持っている方もいるともいます。
しかし、バックリングスプリングキーボードは「ガション!ガション!」と青軸の比にならないほどの音を発します。特に高速でタイピングをすると「ガシャガシャガシャガシャ!」というありえない音がするので自宅で一人で作業をする時のみしか使えません。イヤホンをしていても貫通して聞こえてきます。
職場で使用すると「キーボードの音がうるさい」と注意されるのは時間の問題ですし、言われなくても陰で嫌がられてしまう可能性も非常に高いです。
家で使用する場合さえも夜だと音が響くので他の部屋にいても同居人の睡眠の邪魔をしないように、静かなHHKBを使用しているほどです。
以上がバックリングスプリングキーボードの特徴でした。
まとめると、キータッチは最高レベルの官能性を持っていて耐久性もそこそこ高い代わりに、疲れやすくメチャクチャうるさいということですね。
ステータス割り振りを一点突破したようなキーボードです。
このような特徴があるので、僕が実際購入してみて感じたことはバックリングスプリング式はロマン枠で、普段使いするのは少し厳しいということですね。
それは主に音が原因です。
メインでは静音のキーボードを使用して、このキーボードはサブで時々使う程度が良いと思います。
特に大量のタイピングをする場合は現在の45gキーボードの方が圧倒的に疲労は少ないです。
HHKBの静音モデルは3万7千円と非常に高い代わりにコンパクトで気持ち良いですし、静かで軽いので実用性の観点から言えば最強です。
>>>【忖度無し】HHKBのメリット6つとデメリット6つを1年間使ったので「本音」でレビュー!
1つのメリットがあらゆるデメリットを上回る
今回は往年のバックリングスプリングキーボード式の仕組み、特徴、現在でも新品で手に入るUnicompについても解説しました。
恐らくこの記事をご覧になっている方はキーボードの沼に膝くらいまで浸かっていて、キーボードは複数台持っている方たちだとは思いますが、メインキーボードを探している方は「悪いことは言わないからやめておけ」と言いたいです。
しかし、キーボード沼にハマっていて「HHKBやリアルフォースより気持ち良いキーボードを探している」という方は是非とも試していただきたいです。
バックリングスプリング式は現在のキーボードでは味わえない唯一無二の打鍵感で、しかもその打鍵感も一級品です。特に打ち抜き感がたまりません!
この魅力が突き抜けているおかげで、使用者を盲目にしてデメリットが見えなくなるのです。
それに当時はバックリングスプリング式以外にもalps軸やミネベアのメンブレンキーボードなどの名機と呼ばれるキーボードが他にもありましたが、もう新品では手に入りません。
そんな過去の名機が現在でも新品で手に入るという点が嬉しいです。
これを使用しているとキーボードの歴史を感じることが出来ますので、キーボードの沼にハマっている方は検討してみてはどうでしょうか?
▼現在でも新品で手に入る唯一のバックリングスプリング式キーボード▼
>>>唯一無二の麻薬的打鍵感?UnicompのUltraClassic106 日本語配列をレビュー【IBM】